高齢者の筋トレ効果は人によって大きく異なる——複数の疾患がある人ほど改善しやすい
12ヶ月間の包括的な筋トレプログラムを実施した高齢者314名を調査した研究から、握力や歩行速度などの身体機能が改善する人の割合は30~46%に留まること、そして複数の慢性疾患を抱える人ほど多くの項目で高い改善を示すことが明らかになりました。年齢やBMI、トレーニングへの取り組み度合いも改善の程度に影響することがわかっています。
研究概要
高齢者を対象とした筋トレ研究では、同じプログラムでも個人差が大きく見られます。本研究は、なぜ人によって筋トレの効果が異なるのかを明らかにするために実施されました。平均年齢74.5歳の地域在住高齢者314名が、12ヶ月間の身体トレーニングプログラムに参加しました。参加者は身体トレーニング単独群、または身体トレーニングと認知トレーニングの併用群にランダムに割り振られています。
トレーニングプログラムの内容と方法
身体トレーニングには、レジスタンストレーニング(筋トレ)、歩行運動、バランストレーニング、柔軟性トレーニングが含まれていました。一部の参加者は、これに加えて実行機能(計画や判断など)を高める認知トレーニングも実施しています。
研究者たちは、各参加者の改善度を測定するために「最小有意改変量」という基準を用いました。これは、個人差を考慮した統計的に意味のある改善の最低ライン(ベースラインの標準偏差の0.2倍)です。この基準を超える改善を示した人を「高応答者」として分類し、結果を分析しました。
研究結果
握力、膝伸展筋力、歩行速度、歩行距離のいずれもが有意に改善しました。しかし、改善を示した参加者の割合には大きなばらつきがありました。握力で27%、膝伸展筋力で46%、歩行速度で30%、歩行距離で44%が高応答者でした。つまり、握力に関しては約3人に1人、歩行距離に関しては約2人に1人程度の改善にとどまっています。
筋肉量(付属肢除脂肪量)に関しては、全体としての有意な改善は見られませんでしたが、それでも17%の参加者が高応答者として分類されました。興味深いことに、参加者全体の46%が2つ以上5つ以下の複数項目で高応答を示していました。つまり、握力は改善したが歩行速度は改善しなかったなど、項目によって反応が異なるパターンが多く見られたということです。
改善度に影響する要因
複数項目で高い改善を示す人にはどのような特徴があるのでしょうか。分析の結果、以下の4つの要因が強く関連していることが判明しました。
- 複数の慢性疾患の有無:複数の慢性疾患(高血圧、糖尿病、心臓病など)を抱えている人の方が、複数項目で高い改善を示す可能性が2.6倍高いという結果になりました。
- 年齢:年齢が若いほど改善度が高い傾向が見られました。1歳若いごとに高応答である可能性が1.1%程度上昇しています。
- BMI(体格指数):BMIが低い人の方が改善度が高い傾向にありました。
- レジスタンストレーニングへの取り組み:筋トレへの出席率や参加度が高いほど、改善の可能性が高まりました。取り組み度が1ポイント上がるごとに高応答である可能性が3%上昇しています。
実践への示唆
この研究から得られる重要なメッセージは、筋トレの効果は個人によって大きく異なるということです。効果が現れるまでには個人差があり、握力が改善しても歩行速度は改善しない、あるいはその逆という現象も珍しくありません。
特に注目すべきは、複数の慢性疾患を抱える高齢者の方が改善しやすいという点です。これは直感に反しているかもしれませんが、改善の余地が大きいため改善が目に見えやすいのかもしれません。いずれにせよ、疾患がある高齢者も、適切なトレーニングプログラムによって身体機能を改善させられるという希望的な結果です。
実践的には、①継続的なレジスタンストレーニング(筋トレ)への取り組みが最も重要であること、②改善パターンは個人差が大きいため、握力だけでなく歩行速度や歩行距離など複数の項目を評価すること、③3ヶ月や半年という短い期間ではなく、12ヶ月という長期的視点でトレーニング効果を評価することが推奨されます。年齢や疾患の有無にかかわらず、続けることが最大の成功因子になるのです。





























